激変する時代だからこそ将来のありたい経営の姿をデザインしませんか?~経営革新・事業再構築・事業承継に活用した経営者の声つき~

中小企業経営と経営デザインシート

我が国を取り巻く経営環境は、この数年で激変しました。

新型コロナ感染症、ウクライナ紛争等これらに伴って社会活動に変化があったり、経済活動が止まったりしたのは周知のとおりです。
現在、物価高や人材不足等で苦労されている中小企業の皆さまも多いのではないでしょうか。
「当社はこの先どうしたら良いのだろか。」と悩まれている方もいらっしゃることでしょう。

そのような方々にご利用いただけるのが、経営デザインシート(略称:KDS)です。

経営デザインシート(KDS)とは

経営デザインシート(KDS)は、組織や人が、将来に向けて持続的に成長するために、将来の経営の基幹となる価値創造メカニズム(資源を組み合わせて企業理念に適合する価値を創造する一連の仕組み)をデザインして在りたい姿に移行するためのシートです。

KDSを作成・普及している内閣府のホームページには、KDSの説明に先駆けて、「社会・経済環境が、安定的なモノの供給が市場を牽引する20世紀型から、体験や共感を求めるユーザの多様な価値観が市場を牽引する21世紀型へと変化する中、経営の牽引力の源泉となる知財が果たす役割は増大しています。
企業がユーザの多様な価値観に訴求するためには、価値創造のメカニズムを機動的・継続的にデザインしてイノベーションを創出すること、そのために知財が価値創造のメカニズムにおいて果たす役割を的確に評価することが期待されます。」との記載があります。
激変する今日に思考を整理するのに適した経営の補助ツールではないでしょうか。

出典:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design

KDSは、1枚のシートです。内閣府がいくつかの雛型を公開しています。
私が作成をお勧めしているのは、以下の簡易タイプです。お勧めしているのは、この雛型が一番シンプルであるところにあります。
いずれの雛型も構成は、①上の枠と②右の枠、③左の枠、④下の枠の4つです。②右の枠と③左の枠には、それぞれ、(1)提供価値、(2)ビジネスモデル、(3)資源の枠が入っています。KDSの思考の特徴は、(1)から(2)、(3)へと考えていく(バックキャスト)ところです。(1)資源にとらわれることなく、顧客への(3)提供価値を考えていくことによって、真の価値創造を行うことを意図しています。
また4つの枠に関しては、①→②もしくは③、④の順で作成することが一般的です。③を先にするか、④を先にするかは、意見が分かれています。

経営デザインシートの活用方法

KDSは、企業経営だけでなく公私ともどもいろいろなシーンでの活用が可能です。
ここでは、その中でも環境変化の激しい今日にKDSを作成した方が良い主な企業を3つ記載します。

  • 経営革新が必要な企業

経営革新とは、「事業者が新事業活動を行うことにより、その経営の相当程度の向上を図ること(中小企業等経営強化法第2条第9項)」です。
具体的には、①新商品開発・生産、②新サービス開発・提供、③商品の新生産・販売方式導入、④サービスの新提供方式導入、⑤技術研究開発・成果利用・新事業活動をさします。国が行う中小企業の経営革新に向けた支援は、これらの活動に対して行われる施策です。

経営革新は、従来から行う企業が多くありました。経営革新は、新規性のあることを行うという点でリスクが発生します。
このときに必要になるのは将来を見据えた意思決定を行うことです。このときKDSが活用できます。

  • 事業再構築が必要な企業

事業再構築とは、①新市場進出(新分野展開と業態転換)、②事業転換、③業種転換、④事業再編、⑤国内回帰のことです。
新型コロナ感染症が発生した以降に、中小企業庁が事業再構築の類型として示しました。
いうまでもなく新型コロナ感染症で傷んだ企業が少なくありません。

新型コロナ感染症は経済環境まで変えてしまいました。
このため、再起を図って事業を再構築しようとする企業が少なくありません。
事業再構築を行う場合、製品・サービスや市場を変える挑戦を行うため多くのリスクを負います。
この時に必要なのは、迅速に将来を見据えた意思決定を行うことです。このときKDSが活用できます。

  • 事業承継が必要な企業

我が国では企業経営者の方が高齢化しています。このため、事業承継が企業存続の最重要課題となっている企業が少なくありません。
事業承継は、「「人(経営)」、「資産」、「知的資産」の 3 要素に大別される(中小企業庁「事業承継ガイドライン第3版」)といわれています。
事業承継の類型は、①親族内承継、②従業員承継、③社外への承継(M&A)の3つです。

M&Aで利用される事業承継の形態としては、❶吸収合併、❷吸収分割、❸事業譲渡、❹株式交換、➎株式譲渡、❻株式移転、❼新設合併があります。
いずれの事業承継を行う場合でもこれは「事業承継は経営者個人や親族の財産や相続にかかわるセンシティブな問題であることへの配慮を欠くことのないよう、注意すべきである。(中小企業庁「事業承継ガイドライン第3版」)」というものです。当然、経営デザインの活用も有効となります。

なお、事業承継時のKDSの作成は、必ず承継者が決まった後にも必要です。
M&AでいうPMⅠ(Post Merger Integration:M&A成立後の統合プロセス)を検討するタイミングに該当します。

 経営デザインシート(KDS)の活用事例

ここでは、実際にKDSを作成し活用された中小企業経営者の事例を3つご紹介します。

(注)カギカッコ内は拙著(※)からの引用です。

事例1.経営革新でのKDS事例

(ウクライナ紛争に巻き込まれた蜂蜜農家との取引を行うにあたって)

企業経営を行っていると突然、予期しない災難に遭遇することがあります。福岡県にある蜂蜜製造業の熊手蜂蜜㈱に一本の電話がかかってきました。

「港が使えなくなった、ウクライナから農産物が出せない。迂回してでも農産物を届ける。買ってほしい。私たちにも生活がかかっている。助けてほしい」と。
旧知のウクライナ農家からです。電話を受けた土肥常務は「『なんとかしてあげたい』という思いがこみ上げてきた」といいます。
お客さまからも、消費者向けのウクライナ産商品を売ってほしいとの声が上がっていたそうです。しかし、このときの主力商品は、業務用などの大容量商品でした。・・・。
一時の感情に任せて、思慮もなく消費者向けの商品を開発・製造・販売していては、事業が成り立ちません。・・・。こういう時に行うべきことは、スピーディーに将来を含めた経営の全体像を見つめ直すことです。

同社は、この後KDSを作成し国の補助金を活用しながら、消費者直販用ウクライナ産蜂蜜を開発販売しました。結果は大成功です。
土肥常務は、KDSの作成を振り返って次のようにコメントされました。
「経営デザインシートを使ってアウトプットすることによってありたい姿に向けて、必要となるプラスアルファに気づけるところが効果です」と。
KDSを作成された方の中には、外部専門家を交えてKDSを作成することがあります。これによって、自分だけでは気が付かなかったことに気付けるのかもしれません。

 同社の蜂蜜工場は、佐賀県上峰町にあります。この町は2022年度ふるさと納税の住民1人あたり実質収支が全国3位になった町です。
同社も上峰町税収に貢献したと思われます。もともと蜂蜜は健康にも良いとされているので、一時のブームが去っても一定の需要を確保しているようです。

出典:Amazon (https://www.amazon.co.jp/)熊手のはちみつ

事例2.事業再構築でのKDS活用事例

(新型コロナ感染症で受講生が来られなくなった日本語学校が事業再構築を行うにあたって)

新型コロナ感染症が日本に来た当初、思いがけない災難に遭遇した企業は少なくありません。
その中でも㈲横浜国際教育学院が受けた影響は甚大でした。
海外からの留学生を受け入れていた同社では、生徒が教室(日本)に来られなくなり開店休業状態になったのです。

このとき理事長のご子息で取締役事業統括部部長の和泉氏は、新型コロナ感染症を脅威と考えずチャンスだと捉えました。

和泉氏は、博報堂で同社初の社内ベンチャーで日本発のコミック配信サイトを立ち上げたり、タカラトミー中国の副社長として玩具ビジネスを展開したりした人物です。
画期的なビジネスモデルを考えKDSに落とし込まれました。

KDSの作成は事業再構築を行う前と具体的な事業計画に落とし込んで事業再構築に必要となる投資を終えた後に行われているのです。
KDSの作成経緯に関して和泉取締役は次のように語られました。
「ベース(思考の起点)を2027年にすると見える景色も違って、そこらへんは、現行の従業員の方も想定はされていないので、考え方を共有しようと」と。

KDSを作成される方は、自らの将来のありたい姿を見える化するだけでなく、それを関係者と共有することを考えている方が多いように感じます。

出典:日本留学、日本語なら横浜国際教育学院 (yiea.com)

事例3.事業承継でのKDS作成事例

(脱サラして会社を設立して1人で事業会社のM&Aを行うにあたって)

あなたが長期的にみて日本を取り巻く経営環境で一番問題だと思われることは何でしょうか。私は少子高齢化だと思っています。
2020年時点で経営者の平均年齢は62.5歳(中小企業庁「2022年版中小企業白書」)です。
東京商工リサーチの2022年「休廃業・解散企業」動向調査によると、「休廃業企業の代表者の平均年齢は71.6歳(前年71.0歳)、中央値は73歳(同72歳)だった。
事業承継への支援強化もあり、60代までの事業承継が進んでいるようだ。
だが、70代以上は事業継承への時間的制約に加え、業績低迷などで事業譲渡先が見つからないケースも多く、廃業以外の選択肢を失っている可能性もある。」との記述があります。
つまり、事業承継をM&Aに求めるところが多くなってきているのです。
逆に企業を成長発展させるために、M&Aで事業の引継ぎを行う企業も少なくありません。

とはいえ、M&Aは簡単ではありません。㈲マエダ・エス・エスの現オーナー社長の花崎氏は、M&Aを振り返られてこう語られました。
「長く運送会社に勤めてきたので、それなりに経験はありましたし、前職で社長として経営にも関わることができましたが、それだけでは、信用力がないんだなと痛感しました」と。

事業承継する側も事業を引き継ぐ側も簡単ではないようです。
花崎社長は、事業を引き継ぐ先が決定した後にKDSを作成されています。将来を俯瞰するのに適していますから。M&A後、花崎社長は次のように語られました。

「会社設立後M&Aで苦労した経験から、会社経営の一番の目的が『自分がこういうことをやることによって、M&Aによる会社設立のハードルを下げられればいいな』という点に代わってきた」と。

花崎社長は現在M&Aの役員も兼務されています。M&A後1年多忙な日々を過ごされているとのことです。

出典:有限会社マスダ・エス・エス | 静岡県袋井市の運送業・ガソリンスタンド・中古車自動車販売・自動車整備・労働者派遣事業 (masuda-ss.shizuoka.jp)

さいごに

KDSを活用した企業は、まだまだ数多くあります。私の周りだけでも金融機関や取引先との情報共有のためにKDSを活用した企業や後継者育成や次世代経営幹部の育成のためにKDSを用いた企業、株式上場を行う前に作成した企業、地域を牽引する企業になると決断した企業等様々です。

いずれにしてもKDSは、将来を見据えて新たな挑戦を行うときに作成されています。

貴社も現在、将来を左右するような意思決定に迫られている場合、一度KDSを作成されてはいかがでしょうか。


 ※中村貴彦「補助金活用に役立つ経営デザインシート作成の仕方」日本法令、2023/4/10

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